再会した幼馴染みは犬ではなく狼でした
 「お母さん、亮ちゃんはウチの会社の人だよ。お父さんから聞いてないの?」
 「え?そうなの?何も聞いてないわよ。」
 そう言うと、玄関を開けて私を抱える亮ちゃんがそのまま部屋へ運んでくれた。
 階段が狭いから、自分で行くいうと、俺たちが大きくなったんだな、懐かしいこの階段とひとりでつぶやいてる。

 私をベッドに置くと、ゆっくり休めよと言って降りていく。
 母の嬉しそうな声が聞こえて、しばらくお茶を飲みながら話をしたようだった。
 気がついたときには寝てしまっていた。

 次に目が覚めたときは真っ暗だった。
 枕元の机には水や薬、ゼリーや鍋に入ったおかゆなどが並べられている。
 とりあえず、身体を起こしてトイレに行くと、音がしたせいか母が顔を見せた。

 二階にあがってくると、
 「具合どう?」と聞いて、鍋を持ち、「あたためてくるわね。」と下りていく。

 私は水を飲むと着替えてすっきりした。
 母が鍋を持ってきて、蓋を開けてお茶碗に入れると渡してくれた。

 私を見ながらゆっくり話す。
 「驚いたわね。亮ちゃんからも、お父さんからも話を聞いたわ。お父さんと亮ちゃんもさっきまで一緒に話してたのよ。」
 「そうだったんだ。ごめんね。早く言ってなくて。私も亮ちゃんがウチの会社の一族なんて知らなかったから。」

 母は、笑いながらいう。
 「そうね。お父さんも楓のこともあって黙っていたみたいよ。亮君とまた会えるかどうかも分からないのにね。」
 「お父さんと、亮ちゃんは連絡取っていたらしいの。」
 「そうなんだってね。いやになっちゃうわ。ママも何も知らなかったから。」
 私は、おかゆをぐるぐるとかき回しながら話す。

 「でね。えっと……」 
 「聞いたわよ、あなたたちのこと。」
 母がこちらを見てゆっくり言う。
 
 「良かったわね。あなた、前から亮ちゃんのこと好きだったでしょ。楓の手前、私達も知らないふりしてしまってごめんね。でも、迎えに来てくれるなんて夢みたいな話ね。雫を大切にしたいと言ってたわよ、お父さんに。」
 「そうなの?」
 「ただ、お父さんも心配していたけど、亮君て今の会社の経営者一族なのね。今時、身分違いとか言わないと思うけど、貴女がそのことでいらぬ苦労しないかと心配よ。」
 「……。」
 「とにかく、身体を治すこと。会社も大変みたいだし、無理しちゃだめよ。」
 「ありがとう、ママ。」
 
 
 
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