最後の詰みが甘すぎる。
「瀬尾さんは最終戦、応援に行くのかい?」
「何言ってるんですか。平日なんですから仕事に決まってるじゃないですか」
「なんだ?応援してやらないのかい?」
「私が応援するなんて野暮なものですよ。将棋盤の前に座る時はいつだって一人なんですから」
棋士たる彼らと柚歩の間には目に見えない境界線がある。
父と廉璽ついでに桂悟は、境界線の向こう側の人だ。
朝も昼も夜も将棋のことだけを考え、遂には自分の命だって投げ出すことができる。
父が倒れ、亡くなった時に柚歩は悟った。
……自分は向こう側には行くことはできない。
だから将棋も辞めたし、廉璽のプロポーズも断った。
境界戦を踏み越える勇気を持てない柚歩は廉璽が望んでも同じ道を歩んでは行けない。
「寂しいねえ……」
山崎は柚歩に聞こえないように、ボソリとつぶやいた。