最後の詰みが甘すぎる。

「俺が言ったこと覚えてる?」

 廉璽は宣言通り名人になった。それが何を意味するか、柚歩にはわかっていた。

「今度こそ逃がさない。俺と結婚してくれ」

 柚歩は数秒目を泳がせた後、うんと小さく頷いた。ああ、もう……。なんて嬉しいプロポーズなんだろう。
 柚歩は廉璽と生きる覚悟をようやく決めた。ただ、その前に……。

「廉璽くん、ひとつだけ約束してくれる?」

 プロポーズを受け入れてもらえた喜びに水をさされ、廉璽は首を傾げた。

「お願い……長生きして。ご飯を食べてキチンと寝てください」

 まるで幼稚園児に対するしつけのようなことを言い聞かされ、廉璽はプッと吹き出した。

「いいよ。柚歩こそ、もう逃げないって約束してくれ。俺からも将棋からも」
  
 廉璽は柚歩の髪を撫でるともう一度キスをした。
 将棋界の至宝、津雲廉璽は詰みを見誤らない。

 こうなることが最初からわかっていたのだろうか?

 頭の芯が痺れるほどの蕩けるような口づけは柚歩の心を確かに捕らえていた。

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