最後の詰みが甘すぎる。
エピローグ

 最終戦までもつれこんだ怒涛の名人戦が終わってから三ヶ月後。 

 『MEIKO将棋部』への入部申し込み書を山崎に提出すると、したり顔で先輩風を吹かされた。

「これで瀬尾さんも晴れて職団戦のチームの一員だね。女だからって手を抜くつもりは一切ない。これからビシバシ鍛えるから覚悟してね」
「大丈夫です。山崎部長よりも夫のしごきの方が厳しいので」

 瀬尾柚歩から津雲柚歩に名前が変わった後も、柚歩は会社では旧姓を使い続けていた。
 津雲なんて珍しい苗字、万が一でも結婚相手が廉璽だとわかれば大騒動になる。

 津雲廉璽四冠の結婚は将棋連盟のホームページに小さく掲載された。世間でも相手の女性は誰かと話題になったらしいが、柚歩のことは一般人としか報道されなかった。
 将棋連盟の中にも人気の若手棋士の結婚を嘆く声も多かったというが、右近寺からの一喝で皆一様に口を噤んだらしい。

 二人が結婚するに至った過程を知るものはほとんどいない。でも、それでいい。
 将棋盤の前に座り続けた二人にしかわからない絆を、他の誰かと分かち合いたいとは思わない。

(待っててね、廉璽くん。すぐに追いつくから)

 廉璽は境界線の向こう側で柚歩が追いついてくるのを待っている。
 柚歩の物語は再び始まったばかりだった。



おわり


< 52 / 52 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:27

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

拝啓、愛しのパイロット様

総文字数/39,658

恋愛(ラブコメ)76ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
文房具メーカーに勤務する小町はひょんなことから、 超絶美麗な文字を書く航空機のパイロット、由桔也と知り合う。 思わせぶりな彼の態度に翻弄される小町だけれど、 いつの間にか惹かれていってーー。 「きっと小町も俺を好きになる」 俺様なパイロットに容赦なく甘やかされる。 2025.11.30 連載開始
表紙を見る 表紙を閉じる
「このサイン入りブロマイドが欲しいなら 俺と結婚しなさい」 隣家に住む幼馴染の香月の名前と住所を 使って応募した懸賞。 見事当選!したのはいいけれど…… まさか所有権を主張されるなんて! 推しを人質に取られ仕方なく始まった おとなり契約結婚は予想外のことばかり。 ねえ、香月くん。 いつになったら私は貴方の『特別』では なくなるのでしょう? 推し活にいそしむヅカオタ女子と 心配性のオカン系小児科医による ちょこっと訳アリ?おとなり契約結婚! ※諸注意※ 他人の名義を勝手に使う行為は トラブルの元なので絶対にやめましょう! 作中に出てくる団体、個人名、演目名は 架空の物です。 2023.4.22 公開 2023.5.15 完結 チャマさん。レビューありがとうございます!
表紙を見る 表紙を閉じる
あの頃の私たちは今よりもずっと子どもだった。 2025.7.21 完結予定

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop