君に向けたプロトコル

give and take

21時を過ぎたころ、兄の一樹、喜、楽の三人が黒瀬家に帰宅した。
玄関のドアが開く音が聞こえた瞬間、一葉はリビングから飛び出して3人の下へと急いだ。

「今日は本当にごめんなさい!!」

自分の失敗を素直に3人の前で謝罪した。危うく発売前のチョコクラ3の情報が流出するところだったのだ。

「今日のお前の失敗はぜぇ~~んぶ、楽が片付けてくれたから礼は楽にしろー。楽がいなかったら機密漏洩で会社終わってた。」

一樹はそのまま靴を脱いでリビングへ向かい、喜は頭を下げる一葉の頭を黙って撫でてから靴を脱いだ。

「俺の弟が天才で良かった。情報漏洩はシステム会社にとっては致命傷だから、一葉ちゃん、こう言う事はもうなしにしてね。」

一葉と電話のあと、楽は大学のパソコンを使ってチョコクラ2に前川陽太に見られたマカロンちゃんの設定を裏設定として表示される機能をプログラミングし、そのアップデートデータをバックグラウンド通信でこっそり配信してくれたのだ。
一葉はプレイ専門なのでゲームのプログラムとかよくわからないが、兄二人の話を聞く限りすごいスピードでデータを完成させたそうだ。

「一葉のIDでお前の学校のやつに裏設定のやり方をメッセージ送ってあるから一応見ておいて。」

玄関に取り残された楽が疲れ切った顔で言う。

「えっ!?どうやって私のIDで送ったの?パスワード教えてないのに…。」

「ひみつ。」

「『ひみつ』って…。それより、今日は本当にごめんなさい。それから…、ありがとう。」

「昔っからお前が困ったときに助けるのは俺の役目だからな。気にすんな。」

「…でも。…何かお礼をしたい。」

「お礼してくれるの?」

「私にできる事なら…。」

「…ふーん。」

楽は一葉の顔を見つめて、一瞬、何か浮かんだような顔をしたが無言のままだった。

「何か…欲しいものとかある??高いものは買えないけど…。」

「考えとく。とりあえず腹減ったから今は(めし)食いたい…。」

そう言うと楽は先に家に上がった二人の様にリビングへと向かった。

スマホのメッセージアプリを見ると『pocapoca_hinata_1224』のID宛にマカロンちゃんの裏設定についての説明がご丁寧に画像付きで送られており、既に『既読』マークが付けられていた。

 本当に送られてる…。どうやったんだろう…。

楽は幼い頃から兄たちの部屋に忍び込みパソコンを勝手にイジっては注意されていた。元々パソコンには詳しいと思ってはいたが、ここまで出来るとは知らなかった。

 喜くん、弟が天才で良かった。って言ってたけど…。本当に凄いのかも…。
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