君に向けたプロトコル
今日は母親が早く帰宅しているので家事を一葉がする必要はなく、することもないので自分の部屋に戻ったが、ゲームは自粛し普段やることのない勉強を始めた。そうすることで自分への戒めのつもりだった。

しばらく勉強を続けていると夕食を終えた楽が部屋にきてベッドに腰を下ろした。

「さっきお前が言ってたお礼って、何でもいいの?」

楽には珍しく静かに伺う様に質問する。

「うん。自宅から持ち出さないって約束を破ってすっごく迷惑を掛けちゃったから、私にできる事ならば何でもいいよ!」

「…じゃぁ、こっちきて。」

「えっ?隣に座ればいいの?」

勉強机に向かっていたので、座っていた椅子をくるっと回転させてから、楽の隣に座ろうと立ち上がった。

「…違う。ここに来て。」

楽は一葉の白くか細い腕を掴み自分の膝の上に座らせると、後ろからギュッと抱きしめた。

 ど…どういう状況!?

「お前、こんなにちっこくて、よく生きてんな…。」

耳元で囁かれた声に一葉は心臓が口から飛び出しそうになり、身体は石のように動かない。

「…ら…く…?」

 今、私ってば楽に抱きしめられてる!?

「今日は頭使い過ぎてマジ眠ぃ…。」

楽は一葉を抱きしめたまま横にポフっと倒れこんだ。

「ねぇ…、楽?…ね…眠いなら自分の家に戻って寝た方がいいんじゃない?」

「はっ?今、癒され中なんだからお前は黙ってジッとしてろよ…。」

しばらく抱きしめられたままベッドで横になっていると頭の後ろあたりから楽の寝息が一葉の耳に入ってきた。

 もしかして、寝ちゃったの…?

大好きな楽に抱きしめられ緊張と驚きでドキドキが治らずにいたが、背中から伝わる楽の体温が一葉にとっても心地が良くて、ずっとこのままで居たいと思った。

 な…何コレ。楽にとって私ってば抱き枕?

ゆっくりと身体を回転させ、楽の方へ身体を向ける。

 こんなに近くで楽の顔を見たのは初めてかも…。

ごつごつとした首筋や顎のライン。硬い胸板の厚さから楽が自分とは違い男性であるとより意識させられる。

 楽ってば、こんな状態で寝ちゃうなんて、私ってば全く意識されていないんだなぁ…。

夕食を済ませたばかりの楽の体温は高めで、抱きしめられている一葉もその温もりから次第に瞼が重くなり、そして、

「楽、大好き…。」

と、心の中なのか、それとも声にならないくらい小さな囁きなのか…。区別がつかないくら小さく呟きながゆっくりと眠ってしまった。

一葉の気持ちが楽に届いたのか、それに対する返事なのか…。もしかすると、一葉の願望だったのかもしれない…。意識が消えていく寸前にほんの少しだけ抱きしめる力が強くなった気がした。
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