彼女はアンフレンドリーを演じている
09. 誰にも邪魔させない




 昼休みまであと10分。

 業務に勤しむ営業部の社員の中に、先週怪我の具合を見て会社を休んでいた小山が、今日から出勤し溜まった仕事を片付けていた。

 しかし傍らには松葉杖が備えられ、ギプスシーネ固定された右足が怪我の程度を表している。


 一方その隣のデスクでは、なるべく左手首を動かさないようにキーボードを扱う蒼太が、のんびり議事録を作成中。

 怪我人が二人並んで仕事をする光景に、周りの同情の視線が一気に集中していた。



「はぁ〜、まさか香上さんも捻挫してたなんて、俺たち捻挫の神が憑いてますね!」
「って言っても小山ほどの大惨事は負ってないから……松葉杖って」
「中学の時も部活で経験してるんで、扱いは慣れてます!」
「元気だな」



 明らかに大怪我しました的な外見の小山なのに、朝一番に良い事があった蒼太よりも元気いっぱいで。
 実はその効果も蒼太と同じ人物によるものだったと、これから知ることになる。



「香上さんに言われた通り、先程お礼のメールを冴木さんに送ったんですけど」
「けど?」
「見てくださいよ、この文面の最後!」



 そう言ってパソコン画面を指差す小山は、満面の笑みを浮かべていて、首を傾げた蒼太が椅子ごと距離を詰める。
 するとそこには、小山のメールに対する美琴の返信があった。



「“一日も早い回復を願っております。また一緒にお仕事しましょうね”ですってー!」
「…………あー、そう」



 テンションの高い小山に若干押され気味ではあったが、美琴の返信がそんなに嬉しかったのかと思っていると。
 どうやら純粋な嬉しさだけではないようで、小山が自分の頬を両手で包み込む。



「冴木さん、めちゃくちゃツンデレなんですよね〜」
「はあ?」
「仕事上では手厳しい言葉が多かったのに、今日はこんな優しい言葉で返してくれるなんて」
「小山……」
「はう……なんか俺、癖になりそうで」
「……」



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