彼女はアンフレンドリーを演じている




「じゃあ美琴ちゃんの社内恋愛恐怖症はまだまだ続くなー」
「何その単語……勝手に作んないで」
「今作ってみた」
「……」



 明るく楽しげに話す蒼太に対し、会社にいる時とは違い、やっぱり意地悪で人の不幸を酒のつまみにする男だと怒りが込み上げる美琴。

 すると注文していた生ビールが目の前に置かれて、ビールジョッキを持った蒼太が、優しい瞳で乾杯を誘ってきた。



「俺だけが知ってる秘密」
「っ……」
「に、乾杯」
「そんなことに乾杯しないで」



 一方的にコツンとビールジョッキを当ててきた蒼太は、美琴のツッコミを聞く間も無く、体内へとビールを流し込んでいく。

 その姿に若干呆れながらも、重く受け止められるよりは良いかとため息をつき、続いて美琴も飲み始めた。



「やっぱ仕事終わりのビールは最高だな」
「蒼太くんなら社内の女の子に飲みに誘われそうなのにね」
「社内の子と飲みに行って飲み過ぎでもしたら、俺の真面目で爽やかなイメージが酒癖で壊れるじゃん?」
「お忘れですか? 一応私も社内の人間なんだけど」



 それに酒癖というより、酒を飲む前から会社では出さない本性が、今もう既に出ていたことを指摘しようか迷った美琴。

 真面目で爽やかで、良い人間を演じている方が人間関係も仕事も上手くいく。
 そうやって社内で仮面を被っている蒼太のストレスも、なんとなく理解できるから。



「正反対だね」
「ん?」
「人を寄せ付けない事が優先の私と、人と関わる事が優先の蒼太くん」



 ビールの泡を見つめながらポツリと呟く美琴に、ああ、また念押しされてんのかなぁと少し寂しい気持ちを抱いた蒼太。

 それでも誘えばいつも渋々きてくれるから、この時間だけは美琴を独占できることに喜びも感じる。



「……うん、だから俺と飲んでくれるのは美琴ちゃんだけなんだよ」
「わ、わかってるよ。それはお互い様だから」
「末長くよろしく」
「でも社内の人に見つかったら飲み仲間終了だからね」
「…………」



 美琴自身も、社内のみならず社外でも関わる人間なんて蒼太しかいないが。

 こうして隠れて集まり酒を交わすのは、社内の人間に知られない事が条件だった。



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