彼女はアンフレンドリーを演じている
02. 秘密の飲み友




 それはいつも、美琴の自宅から歩いて数分のところにある、カウンターとボックス席が四つだけの小さな居酒屋と決まっている。


 金曜日の夜は大抵どこのお店も混雑していて、予約がないと直ぐに案内してもらえないことも多々あるが。
 この小さな居酒屋『めぐちゃん』は、路地裏でひっそりと営まれているので、常連客しか訪れない。

 その環境が、美琴には最適であり安心して飲み食いできた。



「何飲む? 蒼太くん」
「生で、美琴ちゃんもだろ?」
「うん、大将、生二つください」
「はいよ! 生二つね!」



 仕事終わりの美琴と蒼太が、いつものカウンター奥に並んで座り注文する。
 久々に来店した二人に、ガタイの良いおっちゃん大将も嬉しくて、笑顔を浮かべながら返事をした。



「あと串焼き盛り合わせとたこわさと、唐揚げください」
「美琴ちゃん、今日は食うね」
「食べないとやってられないのよ、誰かさんにストレスかけられて」
「え、それ俺〜?」
「自覚あるじゃん」



 正直に話す美琴の怒った横顔を、蒼太は微笑みながら見つめていた。

 ストレスの原因となっている男からの呼び出しなのに、それでも毎回来てくれる美琴。
 それに蒼太が内心ほっとしている事に、いつになったら気づくのか。



「じゃあ今日こそは俺の奢り」
「それは嫌」
「なんで?」
「特別扱い受けたみたいで嫌、私にそんなことしなくていいから」
「美琴ちゃんは真面目だな〜男に奢らせておけばいいのに」



 大抵の女性は、奢られたら喜ぶし感謝してくれるし、ラッキーと思うだけで終わることもある。
 そして男性もそんな女性の表情が見たいだけだったりするし、下心があるからカッコつけたいだけだったりもする。



「蒼太くんは私の事情を唯一知ってる人だからこうやってサシで飲めるのに」
「そうでした、ごめんね」
「だから今日もこれからも、割り勘だよ」



 特別扱いも女性扱いも、今の美琴は嫌悪感しか湧かなくて。
 そうなった原因も、そうさせた人物も、蒼太は知っていたから。



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