彼女はアンフレンドリーを演じている




 そしてトラブルは突然、その日の夕方に起こった。



「誰か、C社の去年の売上データ知らないか?」



 重要ファイルが収納されている棚付近で、課長が周りの社員に呼びかけていた。

 どうやら、C社と取引した一月分の売上データをまとめた部分が、ごっそりなくなっているらしい。


 それなら先日、一緒に業務を行った新入社員の畑野(はたの)が使用していた記憶が蘇った美琴。
 いつもネイルが煌びやかで、メイクにも気合が入っている彼女の席に、先輩として自ら問合せに向かった。



「畑野さん」
「え? はい何か」
「課長がC社の売上データ探しています、先日使いましたよね?」
「あーはい、え? 売上データ?」



 美琴に話しかけられて、一瞬驚いた表情をする畑野だったが、その内容を聞いた途端に面倒そうに首を傾げる。

 そしてようやく、自分の行動を思い出した畑野は――。



「その一月分の売上データなら、冴木さんの指示でシュレッダーしましたよ」
「……え?」



 後輩の一言があまりに破壊力大で、全身の血の気が勢いよく引いていくのがわかった。

 確かに印刷済みだったデータに誤りを見つけて、混同しないようにシュレッダーをお願いはしたが。


 それは一日分のデータであって、一月分のデータを破棄する指示なんて、するわけがない。



「あたしは言われた事やっただけですしぃ、冴木さんの言葉足らずが招いたんじゃないですか〜?」
「待って、私は業務連絡はちゃんと……」
「そうその圧、正直すっごく苦痛なんですよね。普段から見下されてるようで、仕事もやりづらかったです」
「っ……」



 そう言って顔を背けた畑野に対し、何も言葉が出てこなくて周囲の音が遠ざかる。

 今まで自分が社内の人たちにしてきた言動の代償が、こうしてはっきり表れただけ。


 落ち込んでいる暇のない美琴は、直ぐに課長のデスクに向かい、自分が誤って破棄したことを報告すると。
 今日中に一月分のデータを集計することを約束し、本日の残業の許可をもらった。



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