彼女はアンフレンドリーを演じている
03. 錯覚を起こしている




 就業時間を迎えても、この時期はまだまだ外が明るくて。
 おまけに週明けということもあり、月曜日から残業する社員はごく僅かだった。


 もちろん、帰り支度をする社員たちの中には、あの畑野の姿もあるが。
 黙々と作業を続ける美琴のことを気にも留めず、むしろ予約しているネイルサロンに向かうことを楽しみにしていた。




「冴木さん」
「か、課長……」



 一人で作業をする美琴の下にやってきた課長が、その様子を心配して声をかける。



「本当に手伝わなくて大丈夫か?」
「はい、私のミスなので。それに今日、課長はお子さんのお誕生日じゃないですか」
「え、なんで知って……」
「卓上カレンダーに書かれているのが、見えましたから」



 人と関わろうとしない割りには、そういうところを見てしまう自分に呆れてしまう美琴。
 結局、中途半端なことをしているだけだとわかっていても、もう後戻りなんてできるはずもない。

 ただ、そんな美琴の観察力に課長はやんわりと微笑んでくれた。



「恥ずかしいの見られちゃったな」
「すみません、でも本当に私は大丈夫なので、帰ってあげて下さい」
「……ありがとう」



 課長の笑顔に応えるように、美琴も少しだけ表情を和らげた。
 業務で迷惑をかけたことに変わりはないので、申し訳ない気持ちも交えて。



「俺の方の業務は今週中に取りまとめられたら大丈夫だし、明日は残れるから頑張りすぎないように」
「はい……わかりました」
「遅くならないうちに帰りなさい、じゃあお疲れ様」
「ありがとうございます、お疲れ様でした」



 責任を感じて、作業していないと不安になる美琴の気持ちを十分理解する課長は、そんな言葉を残して退勤した。



「(できるところまで頑張ろう……)」



 課長に負担をかけないためにも、今日中に三分の二は作成させたい美琴。

 デスクに山積みのファイルを眺めてため息が漏れそうになるも、ぐっと堪えて作業を続けた。



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