彼女はアンフレンドリーを演じている




「本当に、家あがる?」
「え……ここまできたんだし、片手じゃ不便でしょ?」
「まあそうなんだけど……」



 自宅前までやってきて急に渋っている様子の蒼太は、ハッキリ言った方が良いのかどうか迷っていた。

 今の美琴の善意な行動は、おそらく自分にとっては隙だらけであり。
 一度その事について忠告していた蒼太は、全てを許されたと錯覚してしまいそうになる。

 好意を向けられている男のテリトリーに自ら望んで入ってくるいう意味を、どこまで理解しているのかと、尋ねたくもなったが。



「散らかってても引くなよ?」
「ふふ、そんな事で引かないって」



 ここで脅されたと思われるのも、拒絶されてしまうのも怖いので、咄嗟に誤魔化してしまった蒼太は邪な考えを忘れてやっとドアを開けた。



「どうぞ」
「……お邪魔します」



 靴一つ置かれていない玄関は、掃除も収納も行き渡っているのがすぐにわかり、リビングにやってくると更にそれが強く表れている。

 淡い色の木目床に、モノトーンで統一された家具や壁が、まるでモデルルームのようで驚愕した。


 物も少なくスッキリしていて、生活感がないと思いきや、キッチンにはビールの空き缶が置かれてあったので、ちゃんと住んではいるらしい。



「ど、どこが散らかってるのよ」
「え〜と、たまたま掃除した後だった」
「独身男性の一人暮らしレベル高……」
「荷物は適当にその辺置いといて」



 そう言ってスーツの上着を脱ごうとした蒼太に、すかさず美琴が手助けに背後へ近付くと、脱ぎやすいように襟元を持ち、両腕を抜き終わるとそのまま上着を回収する。



「あ……ありがと」
「どこに掛けたらいい?」
「寝室の、クローゼットに……」
「入って大丈夫?」
「あ、うん」



 リビング隣の寝室へと入っていった美琴の後ろ姿を、複雑な表情で見つめる蒼太。



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