彼女はアンフレンドリーを演じている
それから病院を出た二人は、タクシーを拾って蒼太の自宅マンション前まで運んでもらい。
自分の荷物である紙袋も、蒼太のスーツケースも手放さない美琴は、目の前に聳え立つ高層マンションを見上げた。
「……蒼太くんて、こんな良いところに住んでたの」
「って言っても33階建ての8階賃貸だよ」
「8……(私4階建ての2階賃貸マンションなんですけど)」
しかもその事を知っているはずなのに、と美琴が少し拗ねたところで、先を歩き始めた蒼太はオートロックを解除しマンション内へと入っていくので、慌てて後を追いかけた。
まるで高級ホテルのようなエントランスを抜けて、これまたキラッキラのエレベーター扉前までやってきた美琴は、今更緊張し始める。
不自由を補うためにここまで着いてきたものの、好きな気持ちを自覚して直ぐ蒼太の自宅にお邪魔する状況に、少し戸惑いを覚えてきたが。
エレベーターが到着したので、もう後戻りはできない。
「(いやいや、おかしいでしょ……)」
これは怪我をさせてしまった責任を取るための行動であって、それ以外でも以下でもない。
余計な事を考えている場合ではないのに、と心に喝を入れる美琴。
すると突然、スマホを操作していた蒼太の笑い声が、エレベーター内に響いた。
「あ、今主任からメールきて、小山と俺で捻挫コンビだねって」
「……捻挫、コンビ……」
「あれ? 笑うところなんだけど……」
「あ、ごめん。そうだった小山くんと一緒になっちゃったね」
控えめに笑ってみせた美琴は、自分が自宅にお邪魔することを、家主である蒼太がそこまで深く考えていないことに安心するが。
もしかして女性を自宅に招くことに抵抗がないどころか、むしろ日常茶飯事なのだとしたら、と考えると徐々に気分が落ちていく。
8階に到着して二人がエレベーターを降りると、漆黒の玄関ドア前でゆっくりと立ち止まった蒼太。
そして、怪我をしていない方の手でドアノブを握りながら、念のため再度確認してきた。