彼女はアンフレンドリーを演じている
08. 呪いは解かれた




 そろそろ夕食の時間。

 蒼太がシャワーを浴びている間に、勝手にごめんなさいと一言添えて、冷蔵庫の中身を拝見した美琴。

 するとそこには安心するほど、ビールと生ハムやチーズといった、酒のつまみになるようなものしか入っていなかった。



「ですよね……」



 ここへきて初めてホッとした表情を浮かべた美琴が、食材を買いにスーパーでも行こうかと支度をしていると。
 辛うじて部屋着は着ているものの、髪がずぶ濡れ状態で首からタオルを掛ける蒼太が、脱衣所から出てきた。



「片手で服着るのって、結構大変なんだな」
「そそ蒼太くん! 服濡れちゃってる!」



 苦笑いの蒼太に対して、慌てふためく美琴はその腕を引いてリビングのソファに腰掛けさせた。

 すると首に掛かったタオルを奪って、濡れた髪に覆い被せると優しくもわしゃわしゃ乾かし始める。



「ちょっ……わっ!」
「風邪ひくよ、呼んでくれたら手伝ったのに」



 顔が見えない分、先ほどの変な空気を感じさせないほどに普段通りに話せる美琴。

 その状況は、蒼太にとっても有り難く、ついいつもの調子が出てしまい。



「いやいや、流石に全裸見せらんねーわ」
「うっ、それは、見ないように対策を……」
「そんなこと言って〜本当は美琴ちゃんめっちゃ見たいんじゃ」



 と揶揄ったつもりの蒼太の頭を突然、タオルの上から乱暴にかき乱す美琴は、腹を立てているのが直ぐにわかった。



「ごめんごめん、うそうそ」
「たく、調子乗らないでっ!」



 冗談であったことを詫びた蒼太にすかさず喝を入れる美琴だったが、その後の手つきは徐々に元の優しい動きに戻る。

 表情は見えなくても美琴の心情は伝わってきて、ここ数日で一気に距離を縮められた気がしている蒼太。

 ずっと見守ってきた、手すら触れたことなかった美琴に自分の気持ちをぶつけた途端、二人の歯車が確実に“恋愛”へと動き出したから。



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