この恋がきみをなぞるまで。


「あれだけ人の背中に隠れるな、目の前のもんちゃんと見ろって説教垂れてたやつがそんな様かよ」


そんなことは言った覚えがない。

城坂くんの中で、わたしの言葉は随分と歪曲してしまっているのだろう。

それすら、ちがうと言えない。


「何も言わないくせに、見てんじゃねえよ」


ぐっとくちびるを噛んで、涼花の横に立つ。

どうしても、真っ向から対峙すると怯んでしまう。

強ばったわたしの顔が、城坂くんの瞳に映っていた。


その瞳の真ん中にわたしがいたって、球体の裏側には行けない。

覗き込んだ深淵の底で、城坂くんは何を思って、本当はどな顔をしているのか、わからない。


しばらく瞳にお互いの姿を映していたけれど、不意に逸らされた視線が、涼花にしっかりと握られた手に留まる。


「守ってくれる友だちができてよかったな」


皮肉っぽく言って、城坂くんは背を向けた。

その場にへたり込むと、すぐに涼花が支えてくれる。


「涼花、あのね」

「うん。わかってる」

「そんな風に、思ってないよ」

「わかってるって」


大切な友人だといえる唯一の涼花を、わたしへの侮辱にのし上げてしまう城坂くんへの怒りさえ、喉奥に留まってそのうち胸の底に沈む。


守ってくれる友だち。

涼花をそんな風に思ったこと、一度もない。


真っ白で柔らかな真綿から、時期を待たずしてふるい落とされたわたしのような人は、否が応でも自衛の術を身につけないといけなかった。

大袈裟なんかじゃなくて、そうしないと生きていけなかった。


いつからこんなに、弱くなったのだろう。


城坂くんとわたしが、ただ喧嘩別れをしただけの幼馴染みでないことは、涼花だってもう気付いてる。

この町に戻ってきて、城坂くんと再会して、後悔して。

でも、涼花と出会うこともなかったと思うと、ただ、わたしが間違っているだけのような気がしてしまう。


こんなに、弱い人間じゃなかったのに。

今、強さのある人のことが、羨ましくて、仕方がない。

< 18 / 99 >

この作品をシェア

pagetop