この恋がきみをなぞるまで。
まだ半身を覗かせている太陽に背中を見送られて、帰路に着く。
遠くを見遣ると、空が微かに藍を帯びていて、自宅前に差し掛かって振り向くころには、空とビル群の境界を焼きながら太陽が消えていく。
太陽は一瞬たりとも瞬きをせず、誰かを見守り、誰かに睨まれている。
沈み切るまで見送ろうとしていると、昴流がわたしを呼んだ。
「何してるの?」
「何でもない、入ろう」
玄関には日和さんのパンプスが置いてあった。
昴流はすぐに荷物を放ってリビングに走っていく。
放置された荷物から洗濯物と洗い物を分けていると、閉じ切らずにラッチボルトが引っかかったドアの向こうから楽しそうな声が聞こえる。
何となくその空間に入れずにいると、二人が廊下に出てきた。
「あ、昴流。また芭流に片付けさせて」
「違うって!⠀あとでやろうと思ったの!」
貸して、と腕に抱えていた洗濯物を取って脱衣所に駆け込む昴流を見て、日和さんが笑う。
「ああ言うと自分でやってくれるから助かるわ」
「日和さん」
「ん?⠀なに?」
「……さっき、昴流に怪我のことを聞かれた。今までそんなこと、はっきり言わなかったのに」
自分でも、まだ少し動揺していて。
水音の聞こえる洗面台のある脱衣所には届かない声量で告げると、日和さんはきょとんと目を丸くする。
「昴流なら、ずっと前から気にしてたでしょう?」
「そうだけど、何かもう、適当に誤魔化せる感じじゃなくなってきてて。少しだけ話しちゃったし」
「いいじゃない。芭流が嫌な思いをしないなら、話してあげていいと思うよ」
決して楽観視したような物言いではなくて、だからこそ、わたしに委ねられていると感じる。
「ねえ、芭流?」
わたしと日和さんは、昴流は、家族だけれど、他人だから。
どこまでとか、どこからとか、そういう線引きが難しい。
「何にも心配することなんてないんだからね」
やさしささえ、素直に受け取ることができないほど。