この恋がきみをなぞるまで。
「これ、なに?」
「え?」
ベッドに放っていた空箱にはもう一枚も残っていなかったはずだ。
これ、と昴流が手に持っている紙切れを見て、血の気が引く。
どうしてここに入っていたのかとか、考えるよりも先に体が動いていた。
けれどそれよりも早く、昴流は紙を裏返してしまう。
「わ、これ、芭流姉のお母さんとお父さん?」
「っ、やめて、昴流」
「おれより小さいね」
にこにこと楽しそうに写真を眺める昴流とは裏腹に、わたしはずっと動悸が止まらなくて。
写真はぜんぶ処分したはずだった。
お母さんが写っていた写真はお父さんさんが全て捨ててしまったし、お父さんとふたりで写真を撮ることもなかったから、まさか残っているなんて思いもしない。
「お母さんのお兄さんなんでしょ?⠀似てないけど、やさしそう」
「やめて!」
やさしそう、の一言でぷつりと糸が切れた気がした。
激情が込み上げて、悲鳴に近い叫びを上げる。
「芭流姉……?」
普段声を荒らげることのないわたしが取り乱したからか、昴流は怯えたように口元を引き攣らせる。
その手に握られた写真をひったくるように奪って潰すと、今度は昴流が叫ぶ。
「なにしてんの!⠀芭流姉、返して」
「嫌だ。出ていって」
「芭流姉ってば!」
そばにあったゴミ箱に写真を投げ入れると、昴流がすぐに拾おうとする。
まだ体躯の小さな昴流を止めることは容易くて、ゴミ箱を取り上げた後に部屋の外へと押し出す。
「なに、どうしたの、芭流姉」
「入って来ないで」
「なんで?」
部屋と廊下の狭間に入れば、間違ってもわたしがドアを無理やり閉めることはないとわかっているのか、昴流の抵抗が激しくなる。
何度目かの攻防を繰り返していると、リビングのドアが開いて日和さんが駆けつける。
「ちょっとちょっと、何事?」
「芭流姉が……」
「芭流?⠀何があったの?」
半紙の散らばる部屋の中を覗き見ながら、日和さんが昴流を少しだけ離してくれる。
何があったのか、という問いかけには答えずにドアを閉めた。
鍵は閉めなかったけれど、ふたりとも入ってくることはなく、ベッドの上で膝を抱えた。