この恋がきみをなぞるまで。
家に着いて各々、帰宅後にやることを済ませる。
リビングでゲーム機を繋げようとしている昴流に、鞄入れていた袋を差し出す。
涼花にもらった分は部屋に置いてきた。
これはわたしが昴流に買ったものだ。
思えば、わたしから昴流に贈り物をしたことは一度もない。
誕生日はプレゼントとケーキで日和さんと二分しているから。
アクアリウムがモチーフのハーバリウム。
「きれー……」
一緒に売っていたライトスタンドをつけて上に置くと、上部にいくつか散らばる気泡が泡のようにきらめく。
昴流は熱心に観察したあと、ライトを落としてハーバリウムを両手で包んだ。
「ありがとう」
「どういたしまして。……気に入った?」
「うん。大切にする」
久しぶりに見た昴流の笑顔に安堵して、伝えたかったことを切り出す。
「この前、怒鳴ってごめんね」
「おれも芭流姉のいやなことして、ごめんなさい」
ソファの上でお互いに頭を下げあって、まだ上目遣いに様子を伺うような昴流に携帯を差し出す。
「なに?」
「今日は日和さんに早く帰ってきてもらおうか」
「えっ、だめだめ。最近帰るの遅いし、きっと今日だって……」
慌てる昴流には構わずに、日和さんに電話をかける。
着信音が流れ始めると、昴流は身を乗り出して携帯を奪おうした。
高い位置に持ち上げた携帯に手が届く前に、日和さんに繋がる。
「もしもし?⠀日和さんまだ時間かかりそう?」
『え、芭流?⠀電話なんて珍しい……何かあった?』
「早く帰れそうなら昴流と駅まで迎えに行こうかなって」
『そういうこと?⠀わかったわかった、もう終わるから帰るって昴流にも伝えて』
お母さん、と昴流の呼ぶ声は電話越しに聞こえているはずなのに、用件が終わるとさっと切れた。
「上着着ておいで」
「お母さん、帰ってこられるの?」
「早く帰ってきてって言ったら帰ってくるよ」
毎日とはいかないけれど、たまにならこんな日があってもいいと思う。
昴流がわたしの家族を知らないように、わたしも昴流と日和さんのことをすべて知っているわけではなくて。
ただ、こんなちょっとした無茶は許されることを、昴流が知ってくれたらいいなと思う。