この恋がきみをなぞるまで。


少し不安そうにはしているけれど、着替えて駅へ向かう途中、話しているとだんだんといつもの調子を取り戻していく。


「芭流姉、昼どこに出かけてたの?⠀さっきくれたやつ、花屋さんとかに売ってある?」

「北公園でフラワーフェスタってやっててね。友だちが誘ってくれたから行ってきたんだけど、綺麗だったよ」

「遠足で行ったことある。そのときは、菜の花だらけだった」

「菜の花は時期じゃないからなかったけど、こういうのとか、これも」


駅に着いてから、今日撮った写真を昴流に見せた。

男の子だし、あまり興味はないかなと思っていたのだけれど、興味津々で、一緒に撮った花の説明文を拡大して食い入るように見ている。


「おれ、ここ行きたい」

「日和さんと3人で行こうか」

「楽しいかな、お母さん」


最新まで見終わっていた写真をまた一枚ずつ辿りながら、昴流がうんうんと唸っている。


「昴流が行きたいところならどこでも楽しめるよ。わたしも、日和さんも」

「でもやっぱり、3人で決める方がいいと思う」

「そう?」


昴流はそのあともしばらく唸っていたけれど、そうする、と決めたようで、近くの観光スポットを一緒に調べる。

3人でこういう場所に出かけることは、今まであまりなかった。

日和さんが忙しいというのもあるけれど、わたしが遠慮していると昴流もそれを察知して、あまり言い出さなくなったり。


水族館やプラネタリウムのホームページを見ていると、いつの間にか電車が到着していたようで、目の前に影がさしたと思うと日和さんが立っていた。


「仲直りしたみたいね」


仲直り、と言われて一瞬理解が追いつかないくらいには、あまりにも普段通りに昴流と接していたことに自分で驚く。

昴流も何も気にせずに、水族館などの候補を日和さんに見せている。


「昴流はどこに行きたい?」


わたしを真ん中にしてベンチの端に日和さんが座ると、昴流はいくつかページを遡っていたけれど、何度か手を止めて、写真を開いた。

今日撮ったばかりの写真な中から、わたしもいちばん綺麗に撮れたと思う花を日和さんに見せると、ちらちらと窺うように、何か言うのを待っていた。


「あ、これ北公園でしょ」

「行ったことある?」

「この辺でこんなに花が咲いてるのは北公園だけだし、というか、芭流が自分でここに出かけるって話してたじゃない」


言われてみれば、と思い出している間に、昴流から携帯を受け取って写真を流していく日和さんが、涼花たちとのスリーショットで手を止めた。


「わー、涼花ちゃん、また大人っぽくなったんじゃない?⠀この隣の男の子は?⠀かっこいいね」

「それはいいから、昴流も、ほら」


話が逸れる前に日和さんから携帯を返してもらうと、黙っていた昴流もようやく決心がついたようだった。


「芭流姉と3人で、ここに行きたい!」

「いいよ、どうする?⠀次の日曜日にする?」

「えっ、いいの?」

「2人とも、行きたいところとか食べたいものとか言わないんだから、たまにはね」


まさかわたしもそこに入っているとは思わなかった。

隣では昴流まで、そうだよね、と同意し始める。


「だから今日は芭流の食べたいものにしよう」

「えっ、いや、ふたりが食べたいものでいいと思う」

「今日は何でも食べたい気分なのよ」


高すぎないもので、と言われて困っていると、昴流がいくつか候補を出してくれて、無難なファミレスに決まる。


昴流が少し先を歩く途中、日和さんがこっそりと耳打ちをした。


「昴流、へそ曲げてたんじゃない?⠀大丈夫だった?」

「見たままだから、大丈夫」

「芭流がきっかけを作ってくれてよかった、ありがとうね」


わたしも後先考えずにしたことだから、もしかしたら迷惑だったかもしれないと、頭に過ぎらなかったわけじゃない。

だから、こうしてお礼を言われたことをほっとして、同時にすごく、うれしかった。

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