この恋がきみをなぞるまで。
『芭流』





12月も半ばに差し掛かり、期末試験を終えてあとは冬休みを待つだけとなった頃、廊下で城坂くんと桐生くんの姿を見つけた。

友人同士だとは知っているけれど、校内ではあまり二人でいるところを見かけない。

クラスが違うし、教室には教室でよく話す人がいるからだと思う。

どんな会話をしているのか気になるけれど、堂々と聞き耳を立てるわけにもいかず、目の前を通り過ぎようとしたとき、桐生くんに呼び止められた。


「福澄さん、この前教えてくれた映画だけどさ……」


まさかここで呼び止められるとは思わなくて固まると、近寄る桐生くんの後ろで城坂くんが怪訝そうに顔を顰めていた。


「ふたりで行ってみようかなって考えてて」

「う、うん。いいと思う、全然」


後ろの城坂くんが気になって桐生くんの言うことなんて全然耳に入ってこない。

それとなく涼花が気になっていると言っていた映画のタイトルをメッセージで送ったのは先日の話で、そのときは3人でもいいかな?⠀と弱気にだったのだから、随分な進歩だ。


「ありがとう、じゃあまた」

「またね……」


先程まで城坂くんと話していたことすら忘れるほど浮かれているのか、桐生くんはわたしにだけ挨拶して去っていった。

置いていかれた城坂くんは壁に背中を預けて、ずっとわたしを睨むように見ている。


「裏葉といつそんな話すようになったんだよ」

「夏休み明けくらいから、色々あって」

「色々、な」


余計なことを言わなければいいのに、わざわざ含みのある言い方をしてしまう口を噤むと、城坂くんは大きなため息をついた。


「いいんじゃねえの」

「え?」

「裏葉。映画、行くんだろ」


何だかとても見当違いなことを言われているような気がして、首を傾げる。

先の桐生くんの会話と結びついたときには、城坂くんはもう話す気がないようで背中を向けていた。


「まって、ちが……」


わたしも入るとわかっているはずなのに、教室のドアをぴしゃりと閉められて、拒絶されたような気分になる。

一言、すぐに違うと返していれば良かった。


桐生くんにこの誤解のことをメッセージで送ると、授業前なこともありすぐに返信がくる。


【俺、千里に柚木のことは話してないし、勘違いしてるなら別にそのままでいいよ。訂正してくれてもいいし、任せる。】


何の頼りにもならない返信に頭を垂れて教室に入ると、城坂くんは机に突っ伏していた。



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