この恋がきみをなぞるまで。
『瘡蓋』





城坂くんの手の怪我は数週間で包帯が外れ、傷跡は残っていたけれど以前と変わりなく使えるようになっていた。


同じ教室でその様子を、過程を見ていた。


城坂くんとわたしの距離はこんなに遠かっただろうかと、時々思うけれど、でもたぶん、ずっとそうだった。


距離は縮まることも離れることもないまま、3年生になって千里とはクラスが離れた。

相原さんや涼花と同じクラスになり、桐生くんもいる。

進路や将来を意識せざるを得ない学年になり、したいことや自分にできることを探す日々の中で少しずつ、城坂くんが霞んでいく。


「福澄、何かないの?」

「思いつかなくて。相原さん帰っていいよ」

「別に福澄のために残っているわけじゃないし」


進路希望の用紙を埋められず、期日に居残りして頭を抱えていると、相原さんが声をかけてくれた。

前の席に座ってわたしの机に頬杖をつくと、進学に丸をつけて止まっている用紙を見る。


「得意なこととかさ、やってて楽しいことないの」

「歴史は面白いなって思うけど、でもその先はないような気がするし。しょ……芸術的なものは全般、見るのは好き、だけど」

「あー、そういえば、城坂のことよく見てたっけ」

「……え?」


相原さんの口からぽろっとこぼされた聞き捨てならない台詞に、持っていたペンを机に落とした。

そのまま固まっていると、転がったペンを相原さんが拾ってくるくると回し始める。


「あいつ、なんか、習字?⠀やってるんでしょ。福澄が教室覗いてるところ何度か見たことあったなって」

「城坂くんとは限らないんじゃ……」

「球技大会のときに手繋いでたのは?」

「あれは……見られてないと、思ってた」

「あはは、なにそれ。繋いでたってことじゃん」


どことなく楽しげに笑って、相原さんは窓の外を見た。

雲の多い空は、このあと雨になるらしい。


相原さんの助言で、いちばん近い大学の名前を第一志望にして、学部は未記入にしておく。

2年生のときの希望ならまだしも、こんなのでいいのかと聞くと、いいんじゃない、なんて適当な返事をされた。

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