郡くんと甘いビターチョコレート



「……キスは甘いもんだけど、怜南とのキスは苦そう」



触れることのない唇と、からかうような言葉。傾いた顔に細まった目、至近距離。


視界にいっぱい映るのは郡くん。まつげの影が、私の頬に落ちる。
だけど、こんなに近くても触れることはなく、遠くて。


……ていうか。キスが苦そう、ってなんなのよ。

他の子とキスしたことあるって暗に伝えてこないでよ、ばか。
そんなこと知ってるけどお門違いな嫉妬心に心が支配されちゃうの。




「期待した?」

「……〜っっしてない!」




勢いよく立ち上がって、カバンを肩にかけて。

感情表現が苦手な私だけど、多分いま私はむっとした表情をしてる。
だからか、ちょっとだけ焦ったように見せる君は私の手を取る。


そのまま指を絡めて、いわゆる“恋人繋ぎ”をして。


見上げるともう余裕そうに私を見下ろしていて焦ったような顔なんてもうしていなくて結局ペースに飲まれてしまう。
私は逆に余裕なんていつもない。そんなこともきっと彼にはお見通し。



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