開けずの手紙ー完全版ー/長編呪い系ホラー【完結】
正気を失った究極の目的



”鬼島は、丸島を自分では呪い殺さないという選択肢をとった。要は逆恨み相手を自分と同じ、自ら命を断つという絶望の決断に追いつめること…。ヤツはその手段として、常軌を逸した念じ技法を編み出した。それが百夜殺しの呪いって訳だ”

”百夜殺し”…、文字通り100回、眠りという意識の中で逆恨み相手を夜な夜な殺す…。
その人間がみずから命を断つまで。

鬼島の定めたルールは明快極まった。
百晩、”殺される”ことを成し遂げればそれでクリア、つまり呪いは終わりになる。

だが、途中でギブアップの場合は、逆にクリアした数だけの逆恨み相手を抽出し、その相手に向けた”開かずの手紙”を自ら命を断つ直前に送らなければならない。
すなわち、”最終ゴール”に辿り着けない場合、頑張れば頑張ったほど、”その負担”が増していく仕組みになっていたのだ。

”まさしく進むも地獄、引くも地獄…、いや、立ち止まるも地獄の脱出路を完全に封殺した完璧極まる追い込みってことだ。だが、身の毛のよだつ鬼島の本当の狙いは、その先にあったんだ!ヤツの地獄のルール設定は暗黒そのものだ…”

すでに和田の顔面は蒼白を呈していた。


***


鬼島則人にとって、自らが定めた百夜殺しのルール規定における最大究極の”目的”は、逆恨みによる開けずの手紙パンデミック現象をこの世に現出させることだったのだ。

”あの陰湿なイカレ野郎は、百夜殺しの呪いをかけられた逆恨み相手に与えたノルマで、百夜殺しの連鎖を生みだす最終目標を掲げたんだ。その意思は丸島への二枚にも明確な記述があった。丸島は当然、鬼島の究極の悪意を悟り、それならば彼からの最初のターゲットとして、その責任において何をすべきか…。それを必死に考えたんだ。そして丸島は結論に辿り着いた…”

丸島は自分を発端とした、鬼島の目指す百夜殺しのパンデミック現象を断固阻止することを最優先に据えたのだ。
要するに、自分で終わりにする…。
このことを成すにはどうすればよいのか…、その答えはある意味端的だった。

”要は百夜殺しの呪いをかけられたら、その後すぐに自殺しちまえば、理論上、そこで呪いはジエンドだ。逆恨みされた人間から新たな百夜殺しの指令を受ける人間がゼロなら、そこで百夜殺しの呪いは立ち消えとなる。だが、鬼島はそこを読み込んでのルール規定に抜かりはなかった…”


***


そう…、鬼島則人は、百夜殺しの呪い自体の起点は第1夜を経てとしたのだ。
故に、逆恨みを買ったターゲットは、最低でも一度は殺されないと本当に死ぬことはできず、これすなわち、百夜殺しのレールから降りることができないということになる。

”実に簡単な理屈だ。鬼島は丸島で百殺しの呪いの輪を絶やす訳にはいかないから、最低でも一人は逆恨み相手に開けずの手紙を送りつけてから自殺させる必要があった。しかも、鬼島は丸島を弄び、特別キャンペーンとやらで、一夜目はカウントしないサービスを献上してきた。これを読み取った上で、丸島は考え着いたんだ”

丸島は一夜、余分に考える時間を得て、それを有効に生かした。
考えに考えた末、鬼島の念じ編み出したこの恐ろしい負のサイクルを自分までで止める最善の方法を思い立つことができたのだ。

それはまず、一人だけ逆恨み相手を選び、自分が命を断つ前に開けずの手紙をおくる…。
当然、受取った人間には自分からの百夜殺しの呪いがかけられるが、その人間が仮に100夜を持ちこたえてくれれば、それで鬼島の産み落とした呪いの鎖は消滅させられる…。

”どうやら丸島には、それをやってくれそうなアテがあったようだ。高校時代の同級生らしいが…。丸島はそいつにすべての望みを賭けて、三夜目を迎える前、自分から命を断ったんだ。アイツ、オレや鷹山さんに話せば止められるのはわかっていたから、自分だけで…。ヤツからすれば、一日延ばせば百夜殺しのタネを最大で新たに99産んじまうことを頭に入れてのことだったんだろう…。クソッ!鬼島のヤロウ、自分の命を授かったこの世に、とんだ置き土産を残していきやがって…!”

ここまでくると、和田の胸の内は鬼島則人への怒りで占拠させられていた。





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