私の恋人と執事はいつもいがみ合っている
何故、河冨はあんなに余裕なんだ?

星那は俺のモノなのに何故、俺の方がこんな不安になんの?


「………んはぁ…あ…くん…苦し……」

「ん…警戒心……持てっつったよな?」
苦しそうに押し返す星那の手を掴み、壁に押しつけた。

「はぁはぁ……え?」

「星那に隙があるから、河冨に抱き締められるんだよ?」

「ごめんね……」

「星那は“俺の”婚約者!」

「うん」

「俺の許可なく、俺以外に勝手に触らせるなよ!」

「うん、ごめんね。ごめんなさい!」


怖い。
怖いよぉ。

星那は恐怖で身体が震え、ただただ蒼志の言葉に頷き謝罪の言葉を繰り返した。



「━━━━━━ほら、行くよ」
指を絡めて握り、講義室へ向かう。

「………」
無言で手を引く蒼志。
心なしか、歩くスピードが早い。

いつもは星那のスピードに合わせ、ゆっくり歩く蒼志。

穏やかに優しく気遣い、星那中心に行動する蒼志。

きっと、これでも星那に合わせているのだろう。
でも怒りが収まらなくて、無意識に早くなっているのだろう。


も、もしかして、嫌われた……!?

星那は途端に不安になる。

「………あ…く…」
不安が恐怖になり、上手く言葉が出せない。

「……め…なさ…」

でも、謝らなければ!
蒼志に嫌われたら、生きていけない。

「あ…く…ごめ…なさい……」
「ん?
星那、何━━━━━え……!!?」

蒼志が振り向き、星那を見る。
星那が泣いていた。

「あーく……ごめ…なさい…!
ごめんなさい…ごめんなさい…!」

「え?星那!?なんで、泣いて……
いや、俺、星那に怒ってないよ!?」

「ごめんなさい!あーくん、ごめんなさい!
お願……嫌いにならないで?」

「は?あり得ねぇよ!」
すがるような星那に、焦ったように言う蒼志。

「でも、あーくん…」

「星那、こっち!」

蒼志は、講義室とは逆に星那を引っ張る。
そして近くのベンチに星那を座らせた。
自分も横に座り、星那に向き直って頬を包み込んだ。

「いい?星那、俺を見て?」
親指で星那の目元に触れ、涙を拭う。

「あーく……」

「俺は、星那に怒ってない。
嫌いにもならない。
てゆーか、嫌いになれない。
好きで、好きで、好きで堪んねぇんだから!
好きすぎて、おかしくなるくらい。
怒ってたのは、自分に対してだよ。
星那に俺以外が触るなんて、本当に吐き気がする。
嫉妬してしまう自分が、情けなくて……
自分に腹が立って星那に当たってしまったんだ。
……………ごめん!ごめんな!」

蒼志は、星那を抱き締めた。
そして背中をさすり、謝罪の言葉を繰り返した。
< 34 / 81 >

この作品をシェア

pagetop