気づけば、吸血王子の腕の中【上】
しかし、ナターリアは小さな違和感を抱いた。
これは............悲しい、なのだろうか。
これは果たして、辛いことなのだろうか。
ダレル様は、私を、この私を、他でもない私を、好き、...だと言ってくれたのだ。
悲しい...ことなのか?
矛盾は大きくなり、ナターリアは、はたと気づく。
今、自分は “嬉しい” の中にいるのだと。
そう。
胸が苦しいのも、喉がからからになるのも、鼻をすするのも、全部嬉しい。
嬉しくても、人は泣く。
初めての感覚にナターリアは琥珀色の瞳を瞬かせ、しばし呆然としていた。
顔を上げ、戸惑いの眼差しを向ける。
ここにいてもいいの、と。
すると視線の先の王子は薄く微笑み、掬い上げるようにナターリアの息を静かに奪った。