気づけば、吸血王子の腕の中【上】

昔を思い出す余裕がある自分自身に少し変化を感じていた。



その時、微かに空気が動いた。

振り返ると、ダレル様が扉を後ろ手で閉めているところだった。


座っているわけにもいかない気がして慌てて立ち上がると、ダレル様は少し小さめの椅子を持っていた。


小さく息が漏れる。

白いシルクに金糸で刺繍された可愛らしい椅子は、きっと。

自惚れでなければ私のためのものだと、ナターリアは思う。


ダレル様は、大きな青い椅子の隣に持っていたそれを置く。




色は全然違うはずなのに、なぜか、その二つは “もともとあるべきだった” という風に寄り添って映った。






ナターリアがここにいても良いという、目に見える証だった。







< 37 / 147 >

この作品をシェア

pagetop