気づけば、吸血王子の腕の中【上】
昔を思い出す余裕がある自分自身に少し変化を感じていた。
その時、微かに空気が動いた。
振り返ると、ダレル様が扉を後ろ手で閉めているところだった。
座っているわけにもいかない気がして慌てて立ち上がると、ダレル様は少し小さめの椅子を持っていた。
小さく息が漏れる。
白いシルクに金糸で刺繍された可愛らしい椅子は、きっと。
自惚れでなければ私のためのものだと、ナターリアは思う。
ダレル様は、大きな青い椅子の隣に持っていたそれを置く。
色は全然違うはずなのに、なぜか、その二つは “もともとあるべきだった” という風に寄り添って映った。
ナターリアがここにいても良いという、目に見える証だった。