愛しの撲殺男
その3
麻衣



「へー…。じゃあ、ちょうどこの辺りですね?倉橋さんが馬乗りになって殴り続けたのは…」

「うん…。ああ、そこんとこの滲み、そん時の血だよ」

勝田さんは咥えていたタバコを掴んで、そこ、指してた…

数年前にここヒールズで起きた、凄惨な愚連隊二人へのリンチ…

今の都県境じゃあ、ガキ連中の間で伝説になってる事件で、あの砂ちゃんや南部兄も居合わせていたらしいよ

その暴行をここで指揮してたのが撲殺人さんってことなんだけど、実際に暴行を実行したのも倉橋さんなんだそうだ

たぶん、率先して…

何でもそん時、殴りつけていた相手の鮮血を顔に浴び、舌でぺろりとやってたとか

凄いわ…

でもね~

あの人にそう言えば、返ってくる言葉ははっきりしてる

”タダの仕事さ…”

全く、なんてまじめな人なのよ、優輔ちゃんは(笑)


...


「いつか見てみたいな…。倉橋さんの撲殺人ぶり…。できれば、ヒールズでやったみたいな馬乗りバージョンを」

「そんなもん、十代の女の子が見るもんじゃない。女子高校生が口にしちゃダメだよ、そういうことを…(苦笑)」

「わあ…、お父さんみたいだ、倉橋さん」

「お父さんはちょっとだろ、麻衣ちゃん。せめてお兄さんかいとこくらいにしてくれよ、はは…」

「でもさ…、アツシん時は私も立ち会いますからね。約束ですもんね。もしかしたらそん時、馬乗りバージョン見れるか…」

この時、私はあえてそうけしかけてみた…

したら…

「…約束はヤツを一緒に追い込もうってことだろ?処分の場を見せると確約した覚えはないぞ。…はは、それはダメだよ麻衣ちゃん。あきらめてくれな」

「ケチ!」

「ハハハ…」

しかし、結局アツシの暴行&指キリ現場には立会うことになる…

倉橋さんの婚約者という立場で…

...


「…奥さん、あなたは立派です。ウチの若いモンはみんなその仕事ぶりに感服してますよ。倉橋親分の奥さんになる人の立場で、汚れ仕事まで率先してって…」

そう…、”その時”はアツシの流した血とかをモップで掃除したんだよね

倉橋さんはそんなこと、他の人間にやらせればいいって言ってくれたけど…

私にとっては彼との共同作業の延長なのよ

そういう感覚なんだ

汚れた仕事も何も、私は愛しき撲殺人と一緒に仕事するの、とても好きなのよ

真面目にひたむきに、手抜きなしで…

私はそんな優輔さんにぞっこんなんだもん!



ー完ー




< 3 / 15 >

この作品をシェア

pagetop