恋文の隠し場所 〜その想いを読み解いて〜
 リビングに入る。

「本当は、和室にドーンと構えて待っている予定だったんですよ」

 促されソファに腰掛けると、先生はお茶を淹れながらそう言って笑った。

「ですが、3時が近づくにつれてソワソワしてしまって。『待て』ができないなんて、子供のようでお恥ずかしいのですが……でも、杏凪さんが来てくれて、本当に良かった」

 先生はお茶を出すと、そのまま私の隣に腰掛けた。
 急に近くなる距離に、ドキドキと心臓が騒ぎ出す。右側だけ神経が鋭くなってしまったように、先生を感じる。
 不意に先生の左手が動いて、それだけで身構えてしまう。
 先生はクスリと笑いながら、私の右手にそっと自分の手を乗せた。

「せ、先生は……手紙、どうして……?」

「知っていたんです。あなたが、私を慕っていること」

「え……?」

 思わず先生の顔を見た。
 目が合うと、先生は口元に弧を描く。

「今日、様子がおかしかったのもきっと私のせいだって、気づいていました。個展にも、来てくれたでしょう?」

 ――全部、バレていた。恥ずかしい。

「本当は、今日教室の後にあの和綴じ本を渡して、そのまま待っているつもりでした。けれど、もう少し、杏凪さんと一緒にいたいと思ったというか、いたずら心がくすぐられたというか……」

 先生はふっと自分を鼻で笑うように息を漏らす。

「和綴じ本を渡す勇気がなかなか出なかった、というのもあります。ベタなラブレターを、挟んでしまったので」

「……私が、気付かなかったらどうするつもりだったんですか?」

 先生はいたずらに微笑む。

「その時はその時です。でも、杏凪さんは気付いてくれた。それが事実なんですから、たらればは必要ないでしょう?」

 その笑みに、大きくドキリと胸が鳴る。

「杏凪さん、私はあなたに救われました」

「え……?」
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