月下の逢瀬
体を幾回も重ねれば、夜を幾夜も過ごせば、佐和が俺を見てくれる、とそう思ってた。

けれど、繰り返す夜は佐和の壊れていく速度を速めていただけで、
そして俺本人も、気付かないまま静かに、壊れていっていたんだ。



兄貴は祐子さんの妊娠が分かってから、佐和の住むマンションに通う回数が減っていた。
病院の経営が盛り返し始めていて忙しかった、と言うのもあるけど、
跡継ぎを産むという祐子さんを大切にし出したっていうのが本音だったろう。


だから。
佐和は、兄貴の来ない寂しさを補うために。
俺は、佐和の中にいる兄貴を消すために。
自分を壊すだけの行為に没頭していったよ。

密やかな逢瀬は、悪夢だったのかもしれない。
佐和はヒステリックに泣くことが増えたし、俺は怒鳴ってばかりだった。

けれど離れられず、止められず、お互いを傷つけながら、抱き合っていたんだ。


< 129 / 372 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop