月下の逢瀬
今日は闇夜。
月のない空を、窓際でぼんやり眺めていたあたしは、佐和さんのことを思っていた。

顔も知らない女性だけれど、何故だか惹かれる。


やっぱり、先生のあの言葉を意識しすぎているのだろうか……。


『椎名は、佐和によく似てる。二人はまるで、闇夜の月だ』


長い告白を終えた先生が、重ねていたあたしの手を握った。
冷たい手の平にすっぽりと包まれる。


『……闇夜の、月?』


『太陽を羨んだり、自分を隠したりする必要なんてないんだ。素直に、表にだせばいい。
それに、』


きゅ、と力が込められた。


『月に焦がれる者だっている。見渡せば、そこにきっといる。月を望んでいる。
月は孤独じゃない』


先生が、あたしに顔を向けた。
熱を帯びた、少し潤んだ瞳。

泣きそうな顔をしたあたしが映っていた。


『佐和のことを忘れようとしていた俺の前に、椎名が現れた。寂しげな、儚げな様子に、おかしなぐらい惹かれたのは、きみがいつかの佐和と重なったのかもしれない』


『あ、あたしは……、佐和さんじゃない。佐和さんとは、違う……』


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