月下の逢瀬
『宮本と何かあった?』


そんな時、先生から電話があった。


『何で、ですか?』


『椎名が泣いてるから。最近』


驚いた。
学校ではあたしは泣いてないし、普段通りを意識していたはずなのに。


『嘘! 泣いてない、あたし』


『泣いてる。わかるんだよ、ちゃんと見てるんだから』


優しい声音に、疲れた心が揺れた。


『俺、椎名が好きだよ。だから、泣かせたくない。
何かあったんだろ? 言いな、楽になるから。全部聞いてあげるから』


ずっと一人で拭っていた涙が、溢れた。
毎晩自分を抱きしめていた、寂しさが堰(せき)を切って。


『……理玖と、サヨナラした……っ』


初めて、誰かの前で声を上げて泣いた。
子供のように、泣きじゃくって。

先生はそれをずっと聞いてくれて。
大丈夫だよ、って言ってくれた。
何度も、何度も。



それから、落ちついたあたしに、週末にどこかに気晴らしに行こうか、と言って。
毎週、色んな場所に連れて行ってくれるようになった。


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