月下の逢瀬

「ん……。みず……」


ベッドの枕元に置いておいたペットボトルに手をのばす。
ミネラルウォーターを喉に流し込んで、大きく息を吐いた。


「はい。理玖」


「ん」


差し出すと、理玖は喉をならしてそれを一息に飲んだ。
その姿を見ながら、ベッドに体を横たえる。

今は何時だろう。
まだ夜明けには早いはず。

まだ、理玖と一緒にいられるはず。


時計が掛けられている壁に目を凝らしていると、理玖が毛布をかけてくれた。


「ありがと」


理玖と離れた体は、さっきまで熱いくらいだったのに、少しずつ冷えていっていた。
その横に、理玖がするりと入ってくる。

暖かい毛布の中で、あたしは理玖に抱きつくようにしてくっついた。


「真緒」


「なに?」


理玖はあたしの髪、理玖が好きだからとずっと伸ばしている髪を手で梳きながら、優しく名前を呼ぶ。


「眠たい?」


「少しだけ。理玖は?」


「大丈夫。
真緒はもう寝ていい。俺は後で勝手に帰るから」


さっきまであんなに荒ぶっていたのが嘘かのような柔らかい仕草、優しい声。

理玖はいつも激しいばかりではない。
あたしを物のように抱いて帰ることもあるけれど、こうして穏やかな時間を過ごすこともある。

時には痛みを感じさせる手も、ゆっくりとあたしを撫でてくれる。


< 21 / 372 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop