月下の逢瀬
ちくちくする痛みを押し隠して、曖昧に笑った。


「席つけー。朝礼すんぞー」


その時、担任が大きな声を張り上げて教室に入ってきた。
あたしの顔見て、うん? と目を見張る。

「椎名。もう大丈夫なのか?」


「あ、はい。昨日はすみません」


軽い風邪でした、と頭を下げる。

先生はそれを聞いて納得したのか、出席簿を片手に教卓へ向かった。


「真緒、早く席つこ」


「ん」


窓際の自分の席に慌てて座る。
先生はしわがれた声で出席をとり始めていた。

目の前の結衣の背中を見ながら、あたしはそっとため息をついた。


ごめん、結衣。
嘘ばかりで、本当のこと言えなくてごめん。
結衣は、いつも相談してくれるのにね。


泣きそうになって、視線を外へ向けた。
晴れた空には小さな雲が一つ。

最近ずっと曇り空だったから、久しぶりの青空が眩しい。


いつか、結衣に本当のことを言える日がくるかな。
その時はごめんなさいって謝ろう。



今は、あたしは話さなくちゃいけない人に、話すことだけ考えよう。


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