月下の逢瀬
ずっと会いたくてたまらなかった。
不安に押し潰されそうで。
ずっとこの手を望んでた。

ようやく触れ合えたことに、泣きそうになった。


「何でここに?」


「玲奈さんが、気になって……。ううん、気づいたらここに向かってた」


躊躇いながら答えると、そうか、と理玖は言って。


「真緒まで具合を悪くしたのかと焦った。でも、本当に大丈夫か? 顔色、マジでよくない」


「……琴乃ちゃんと、話したせいかも」


ぽつりと呟くと、理玖が苦々しい表情に変わって。


「あいつも来てたのか。もう、帰った?」


「多分。急いでたみたいだから」


「……とりあえず、場所変えるか。そこの階段から中庭に降りよう」


行こう、と理玖があたしの手を引いた。
すっぽりとあたしの手を包む手の平。

あ、と思った次の瞬間。
理玖は振りほどくようにあたしの手を離した。


「……っと、悪い」


ばつが悪そうに言って、あたしに背を向けた。


「行こう」


「……ん」


先を行く背中を見つめる。
あたしは一瞬感じた温もりに触れるように、両手を握り合わせた。


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