月下の逢瀬
「……ああ。昨日のやつか」


「あ……うん。なんか、見ていたいって言うか」


もぐもぐと答えるあたしからついっと取り上げて、それに目を落とした。


「ふうん。エコー写真って、初めて見るな。
これが、頭だよな? じゃあこっちが体か」


トントンと指先で確認する。


「そうだよ。それにね、このぴょこってしてるとこ、手なんだよ。これじゃよくわかんないんだけど、もう足もあるんだって。
大きさは2.4cmしかないのにね」


つい身をのりだして、先生の持つ写真を覗き込んだ。
小さな赤ちゃんは、もう人の形になっている。
けれど、小さな手を羽ばたかせているようなその姿は、クリオネにも似て見えた。


「へえ、すごいな。これが、もっと大きく育っていくんだもんな」


「え? あ……、うん」


先生の何気ない呟きに曖昧に答えて、ベッドに再び体を沈めた。


『大きく』、『育って』いけるはず……ない。


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