月下の逢瀬
はらはらと花びらを降らせる木陰に近寄った。


手の平を目の前に差し出すと、花びらがふわりとのった。


「優月、ほら。花びら」


「はなびら!」


無邪気にあたしの手の平からそれを摘み、ワンピースのポケットに押し込んだ。


「優月、それどうするの?」


「パパに、どーぞってするの」


「パパにあげるの? 綺麗だもんね」


「うんっ」


へへ、と満足げに笑う優月の頭を撫でる。
柔らかな髪の感触に、こちらも笑みが湧く。
と、優月が顔を上げて、


「はやく、ぶらんこいこ!」


急かすように手を引いた。


「そうだね、行こうか」



公園までの一本道を、再び歩きだした。


隣をとことこと歩く優月を見下ろした。
小さな頭が、歩くたびに揺れる。

名前を呼ぶと、嬉しそうに顔を上げて、あたしと笑い合った。




そんな些細な瞬間。
あたしはいつも、平穏な幸せを手にしたんだな、と思う。


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