月下の逢瀬
家を出た日から、三年が過ぎた。
あの夏に生まれた娘、優月を連れて、あたしは三年ぶりに家に帰ってきていた。


少し様変わりした町並みを、幼い手を握りながら歩く。
見慣れない場所を、優月はきょろきょろと見渡していた。


「この先に公園があるんだよ。ママとブランコに乗ろっか」


「うんっ」


にぱ、と笑顔で答える優月は、どうやらあたしに似ているらしい。
癖のない真っすぐな髪も、笑ったときに眉が下がるのも、自分でもそっくりだと思う。
晃貴は優月のことを、たまに『ちい真緒』と呼ぶくらいだ。


自分の子供ではない優月を、晃貴は実子のそれ以上に可愛がってくれている。
『愛してるよー』なんて言って抱きしめる様子を見ていると、本当は晃貴の子供じゃないかと思うことすらある。



と、優月が悲鳴にも似た声をあげた。


「ママー! あれ、あれ」


きゃあ! と顔をほころばせて指差した先には、ピンク色に染まった桜。


「まだあるよ! しゅごーい」


「福岡はもう散っちゃったもんね」


過ぎ去ったはずの時に、また巡りあったような不思議な感覚を覚える。


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