月下の逢瀬
「ここ最近さ、ずっと真緒のこと考えてた」

「え?」


「結婚ってのがようやく実感できてさ。
そしたら、何だか真緒のことばかり思い出すんだ」


驚いて隣に座る理玖を見た。


「泣かすことしかできなかった。
一番大切な、好きな女だったのに。
俺が情けないから、離れていくのを見てるしかなくて。

この手で幸せにしたかったのに、他の男にお願いしますなんて言わなくちゃいけなかった。

そんなことばかり、考える」


「理……玖……」


手にしたカップが落ちた。
赤茶のレンガに、蕩けたアイスが広がっていく。


「ずっと真緒が好きだった。

でも三年経って、ふっ切ったつもりでいたんだ。
俺だけが必要だっていう玲奈を幸せにするつもりだった。

だけど、いざとなったら心が拒否してる。
こいつじゃないだろ、って。


馬鹿みたいだろ。今更何言ってんだろうな」


肩を竦めて笑うその顔は、泣きそうにも見えた。
理玖の泣く姿なんて、まだ小学校にも上がらない、幼い頃のそれしか知らない。


「理……」


無意識に背中を撫でようとした手を、慌てて引っ込めた。


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