月下の逢瀬
肩に頭をのせた優月はすうすうと寝息をたてている。

その体を抱えなおして、ふと空を見上げた。



柔らかな桜と、その向こうに広がる綺麗な青空。



その雲一つない空に、月がそっと姿を現していた。


「月……」


「え? ああ、本当だ」


ほんのりと青白い光を放つ月は、細く弧を描いている。


理玖を待ち侘びた幾つもの夜。
隙間から零れる月光を共に眺めた夜。

あたしたちのひそやかな逢瀬。
その儚くも哀しい、けれど愛おしい時間は、あの月しか知らない。

始まりも、そして終わりも。


「最後まで、月明かりの下、か」


「……そうだね」


陽の光を浴びられない恋は、月光にしか照らされないのか。
だけど。


「見守ってくれてるみたい」


その光を、ただ見つめていた。






【月下の逢瀬】    了



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