月下の逢瀬
「真緒ー。一緒に帰ろ」


「……あー、ごめん。今日図書委員の仕事があってさ」


翌日の放課後、バッグを手にした結衣に申し訳なさそうに言った。


「うわ、面倒くさそう。真緒、大変だねー」


「うん、もう次は絶対委員なんてしないよ」


眉間にシワを寄せて言う結衣に、同じようにシワを寄せて言う。


「仕方ない。一人で帰るか」


「また今度、一緒に帰ろうね」


結衣に手を振って、教室を出た。


行くのを躊躇っていたら、放課後になってしまった。
職員室だから、昨日のようなことはないだろうけど、やっぱり怖い。

でも、避けられない、よね……。

職員室へと重い足を向けながら、気持ちは未だに躊躇していた。

行かなければいけないのは、分かっている。

でも。

昨夜の事が思い出される。

今まで、『先生』だと思っていたのに、ただの男の人なのだと嫌でも理解させられた。

強引な腕、唇。

あたしを欲しいと言った、顔。


思い出して、胸が痛む。
胸につけられた、二つの印。


溜め息を一つ吐く。



「理ー玖っ! 帰ろう」


目の前の教室から、女の子が一人飛び出した。

『2ーB』

理玖のクラスでもあるそこから現れたのは、やっぱり同じクラスにいる玲奈さんだった。


「そんなに急がすなって」


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