月下の逢瀬
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震えるケータイで我に返った。
のろのろとバッグから取り出してみると、ディスプレイに理玖の名前。

今頃は玲奈さんとケーキショップのハズじゃないの?
慌てて開くと、ただ一言、『今晩行く』とだけ。


変なことを思い出していたせいか、その短い文章でもほっとする自分がいる。


今は、理玖に会える。
理玖に触れられる。
理玖のそばにいられる。


すぐさま、了解のメールを打とうとして、手を止めた。

胸元には、昨日先生がつけたキスマークがある。
数日前の理玖のものよりも鮮やかな、印しが。


真っ暗だし、見つからない、かな。
でも、何かの拍子に理玖が気づいたら?
あたしが他の誰かと、と勘違いされるかもしれない。


きゅ、と唇を噛んで、メールを作った。


『生理きたから』


もうそろそろ予定日でもあったし、違和感はないはず。

本当は、今すぐにでも理玖に会って、あの痕を消して欲しいけど……、言える筈がない。

拒否する親指に力を込めて、送信ボタンを押した。


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