月下の逢瀬
「――じゃあ、文化祭の出店は喫茶店ということで」


気付けば、文化祭の時期になっていたらしい。
あたしが自分のことで頭がいっぱいだった間に、校内は文化祭の話題で活気づいていた。

今も、ぼんやり眺めている間にクラスの出し物が決定した。


「女子は浴衣で、とかちょっと楽しくなりそうじゃない?」


前の席の結衣が振り返って言った。


「へ? 浴衣?」


そんな面倒なことするの? と眉間に軽くシワを刻む。
それを見て結衣がくすくすと笑った。


「真緒ってば面倒くさいって顔に出過ぎ。楽しそうでいいじゃん、浴衣」


「そお? だいたい、10月に浴衣ってちょっと季節外れじゃない」


「関係ないって。それにもう決まったことだし」


結衣が指差した黒板には、『女子は全員浴衣!』と書かれていて、しかもその上には赤いチョークで決定と大きな文字。


「コウタって浴衣とか着物好きなんだ。見に来てもらお」


嬉しそうに言う結衣。
そうか、見てもらう人がいるから楽しみになるんだ、と思う。


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