月下の逢瀬
理玖。
理玖は見たら何か言ってくれるかな。
理玖に浴衣姿を見せたなんて、もう何年も前のこと。小学生の頃が最後。

少しは、似合うとかいう言葉を口にしてくれるかな。


「……ま、たまには浴衣着るのもいいか」


ぽそりと呟いたあたしの顔を、結衣がにやにやと覗き込んだ。


「何ぃ? 真緒にも見て欲しい人とかいるのかな?」


「や、別にそんなんじゃないけど、さ」


慌てて否定するけど、結衣はその笑いを消さない。


「真緒もそろそろさあ、新しい彼氏作ったらいいんだよ。あんなバカのこと、まだ引きずってるわけじゃないんでしょ?」


「あの人なんて、忘れてたよー。
じゃなくてさ、彼氏とかって自分が欲しいと思っても、相手の気持ちだってあるんだよ? 簡単に『作る』なんて無理だって」


「ん? じゃあ、好きな人とか気になる人とかはいるってこと?」


キラキラとした瞳は好奇心に満ちていてる。


「いないってば。一般論でしょ」


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