孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
 胸をざわつかせたまま、とぼとぼ歩いて帰途につくと、私がアプローチを歩いている最中に車が入ってきた。車寄せに停まったそれの後部座席から下りてきたのは、いつもならまだ仕事中の旦那様だ。

「奏飛さん!?」

 驚いて名前を呼ぶ私に、彼が微笑みかける。その顔を見た途端、一気に安堵すると同時に胸が締めつけられた。

「ただいま。用事が早く終わったからさっさと直帰してきた。深春も──」

 奏飛さんが無性に恋しくなって、話している最中にもかかわらず胸に飛び込んだ。彼は戸惑いながらも、優しく抱きしめ返してくれる。

「どうした?」
「会いたかった……」

 しがみついたままぽつりと呟くと、彼が嬉しそうにふっと笑う。

「毎日会っているのに。そんなに俺が足りない?」
「いくらでもこうしていたいです」

 素直に甘えてむぎゅっとほっぺを押しつける。奏飛さんは「可愛すぎてどうにかしたくなるだろ」と困ったように笑い、抱きしめる力を強めた。

 ……大丈夫、私には強い味方がいるんだから。何度叔父が迫ってきても、毅然と断ればいいだけ。そう思うのに、どうしてこんなに不安になるんだろう。

 言いようのないもやが心を覆ってくるのを振り払いたくて、私はしばらく愛しいぬくもりに包まれていた。

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