孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
新妻は初夜に手解きされる
 黒凪さんの妻になる決心をした私は、文字通り身ひとつで鮫島家を後にした。見えないガラスの靴を履いたまま。

 服や小物などは、後日皆がいない時間を見計らって取りに行くつもりだ。もちろん荷造りなどしていないが、元々私物も大事なものも少ないのですぐにまとめられるはず。

 心残りなのは育てた野菜たちと、あの野良猫に会えなくなることだけ。タイミングよく姿を現したら、ちゃんとお別れがしたい。

 様々な思いを巡らせながら連れられてきたのは、六本木にある高級ホテル。黒凪家側に結婚の承諾をもらえるまで、今夜からひとまずホテルに泊まることになったのだが……。

 車窓からラグジュアリー感たっぷりなエントランスを見た私は、目が点になる。

「まさか、このホテルに泊まるんですか?」
「なにか問題でも?」

 涼しげな調子で聞き返す黒凪さんのほうを、勢いよく振り向く。

「もったいなさすぎます! 安いビジネスホテルで十分ですから」
「ここは俺たちが所有しているから、泊まらない選択肢はない。この辺り一帯も黒凪の庭だしな」

 圧倒的な財力を見せつけられたようで、私は開いた口が塞がらなかった。
< 61 / 257 >

この作品をシェア

pagetop