孤高の御曹司は授かり妻を絶え間なく求め愛でる【財閥御曹司シリーズ黒凪家編】
 わざわざ部屋までついてきてくれた黒凪さんが、淡々とそう言った。

 またしてもお金のことを考えると白目になりそうだし、ゆったり過ごせるどころか逆に落ち着かない気が……という本音は心の中だけに留めておく。

 遠慮がちに部屋の中を探索しだす私に、黒凪さんがざっと設備の説明をしてくれた。バスルームにはどうやって使うのかよくわからないシャワーもあるし、アメニティーすらも高級そうでため息がこぼれる。

 彼は説明を終えると、「なにか必要なものがあったらルームキーを使って」と言い、さっさとオートロックのドアのほうへ向かう。ホテル内での支払いはルームチャージでしてくれ、ということだろう。

 私は恐縮しながら、彼を見送るためについていく。

「また明日進捗を報告するから、それまで好きに過ごしていて。鍵は絶対に失くさないように」
「わかりました」

 しっかり頷き、彼が帰ってしまわないうちに「あの」と呼び止める。

「今日は本当にありがとうございました。ものすごく目まぐるしかったですけど、黒凪さんのおかげで人生がいい方向に変わりそうな気がします」

 服や食事をごちそうしてくれたのはもちろん、私の新しい未来を切り開いてくれたことに、なにより感謝したい。
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