転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします

退職願を出してから今日まで、地獄のような日々だった。

周りの社員からは白い目を向けられ、その上司は人の目を盗んで近付いてくる。仕事を辞めるなら俺が養ってあげるから結婚しようと言われた時は、急所を蹴飛ばしてやろうかと思った。

でもこの事を父に相談出来る訳もなく。だからと言って他に話せる相手もいなかったから、こうして今、この男に優しい言葉をかけられて、何だか少し救われた気がした。


「私こんな性格だから、今まで友達が出来たこともなくて。見た目で判断されることも多かったから、私も心を開けなかったし」

「うん」

「だから、なんか色々どうでもよく思えて。転生して、新しい人生歩んじゃおっかなーって」

「それで、電柱?」

「…そんなんで転生出来ないことくらい分かってましたけどね。それに私がいなくなったら、父も転生して追っかけてきそうだし」


追いかけてくる父を想像して小さく溜息を吐いた私に、男は「確かに」とくすくす笑う。そして私の額に視線を移した彼は「その痣、当分消えそうにないから明日からニートで良かったな」と、よく分からない慰めの言葉を紡いだ。


「…まぁ、理由はこんな感じです。ご清聴ありがとうございました」


こんなにも自分のことを喋ったのは、もしかしたらこの人が初めてかもしれない。

名前も知らない、無駄に綺麗でちょっと怪しい男だけど。溜まっていたものを吐き出したからか、さっきより心が軽くなった気がした。


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