転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


ずっとお預けを食らっていたせいか、触れ合っただけの軽いキスなのに身体がぞくりと反応した。
キスってこんなに気持ちよかったっけ。身体が麻痺したように、力が抜ける。


「……やっと、してくれましたね…」


再び至近距離視線を重ねながらそう呟くと、逸生さんは何も言わず私を腕の中に閉じ込めた。徐に伸ばした手を逸生さんの背中に回せば、私を抱きしめる力が強くなった。

自分から誘ったくせに、心臓が煩いくらい音を立てている。ドキドキして落ち着かないのに、なぜか彼の腕の中は安心出来た。

もしかすると私は、ずっと逸生さんにこうして欲しかったのかもしれない。そう思ってしまうくらいには、この腕の中から離れたくなかった。

誰かとキスをして、こんな気持ちになったのは初めてだ。


どうしよう。この恋人ごっこ(・・・・・)に、ハマってしまいそう。


そんな事を考えていた矢先、突如空が明るくなり、遅れて爆発音が鼓膜を揺らした。どうやら花火が打ち上げられたらしい。

咄嗟に逸生さんから離れようとしたけれど、私の背中に回っている手がそれを許してはくれなかった。


「…大事過ぎて、出来なかったんだよ」


小さく囁かれた声は、花火の音にかき消され、私の耳には届かなかった。

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