転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします
整った顔をしているとは思っていたけれど、ここまでとは。それは、自他ともに認める美人の私が嫉妬心を抱くほどだ。
「はい、これ」
私がぼーっとしている間にポケットからレザー調の小さなケースを取り出した彼は、その中から1枚の紙を抜き取ると、ずいっとこちらに差し出してくる。
彼の声にハッとした私は、それをおずおずと受け取ると、その小さな紙に視線を落とした。
「…九条 逸生……?」
渡された小さな紙はどうやら名刺だったようで、そこに印字されている字を口に出して読めば、目の前の男は「うん」と笑みを浮かべながら頷く。
「…九条って、もしかしてあの九条さん?」
九条。恐らく、この街で九条という名前を知らない人はいないと思う。
九条グループは様々な事業を手がける会社で、この辺ではかなり有名。しかもこの男、どうやらその会社の専務らしい。
そんな人が、一体どうしてこんな所に?こういう人って、常にボディガードを連れてるんじゃないの?
それどころか、フードを被ってゲームアプリをしながらひとり夜道を歩いているなんておかし過ぎる。
この名刺、まさか偽物じゃないわよね。だって、こんな呑気で自由な男に専務が務まるとは思えないもの。
「あ、その顔。信じてないだろ」
「信じられるわけ、ないじゃないですか…」
もし仮にこの名刺が本物だったとして、どうして急に私を秘書に?恋人ってどういうこと?
どうしよう。この人の考えていることが謎すぎて、どう対応すればいいのか分からないわ。