転生(未遂)秘書は恋人も兼任いたします


「てか君は嫌じゃないわけ?」

「…え?」

「好きな男が他の女と結婚するところ、目の前で見てなきゃいけないのに」


副社長の口から“好きな男”という言葉が出てきた瞬間、思わず身体が固まったけれど、恐らく彼は、逸生さんの周りにいる女はみんな彼に片思いしているという考えなのだろう。まぁ、あながち間違いではないけど。


「どうせあいつから声掛けてきたんだろ?それでこっちをその気にさせといて、本人は結婚って…ほんとクズだろ」


相変わらず抑揚のない声で放たれた言葉に、ずきりと胸が痛んだ。

彼の言う通り、好きな人が他の女性と結ばれるところを間近で見るのは苦しいものがある。心から祝福するのも難しいし、想像するのもつらい。

だけど私は、その頃には逃げるようにこの会社を辞める予定だ。でも副社長はそのことを知らないから、さっき私に対して“被害者”という言葉を使ったのかもしれない。

確かに逸生さんの優しさやかっこよさは罪深いものがある。だけど、自分が被害者だなんて思ったことは一度もない。私が勝手に惚れてしまっただけ。ただそれだけの話だから。


「…私は、専務が幸せになれるなら全力で応援します。大切な人の幸せを願うのは、普通のことですから」


敢えて“大切な人”と言葉を変えた私に、しらけた顔を向けてくる副社長は「幸せを願う…ね」と呟くと、私の方へ一歩詰め寄り、温度のない瞳で見下ろしてきた。

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